仮想通貨の税率を55%から20%に引き下げるって言ってる人いいよねえ・・・!
55%、、、うーん。分離課税のことだとおもうんだけど・・・。
どうしたの?
所得税と住民税あわせて55%っていうのは、課税所得4000万円以上のひとのことなんだ。所得税っていうものは課税所得の金額に応じて税率が5%~45%まで変わるものなんだよ。
え?4000万円もある人なんてほとんどいないでしょ!
そうなんだ。もっと言えば、今払っている所得税が5%や10%の人からしたら、増税になる可能性だってあるんだよ。
え?そうなの??
そうなんだ。でも、まだ改正案のくわしい内容はわからないのだけど、いまの税制のままでこの方式になった場合にどうなるのか考えてみるね。
【仮想通貨】分離課税20%で税金は下がる?増税になる人もいる?
税金ってややこしいですよね。
ぼくは以前市役所の税務課に6年間勤務しましたが、それ以降も税法の改正は何度も繰り返してどんどん複雑化していますして難しくなってきています笑
まず大原則として、ぼくたちが得る収入に対してかかる税金は大きく分けてふたつあり、所得税と住民税です。
いまの税制では仮想通貨取引で得た所得は雑所得扱いとなっており、所得税の最低税率が5%、最高税率は45%です。
住民税は一律で10%なので、所得税とあわせると最小で15%、最大で55%です。
これを、「最大55%の現行法を改正して株取引などと同じように分離課税方式、一律20%に!」といった声があります。
ちなみに、分離課税方式とは現在の税法で株や不動産取引などの一部のものについて、所得税と住民税あわせて20.315%の税率にするものです。
(参考:国税庁HP「上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度」)
「55%を20%に」、とだけ聞くと減税のような気がしますが、、、表にするとこんな感じになるわけです。
所得税率 | 住民税 | 所得税と分離課税の税率 | 増減 |
5% | 15% | 20.315% | 増税 |
10% | 20% | 20.315% | 増税 |
20% | 30% | 20.315% | 減税 |
~45% | 23%33% ~55% | 20.315% | 減税 |
というわけで結論から言いますと、低所得の方は増税になって、高所得者の方が減税になるというしくみなわけです。
実際のところは計算がもっと複雑なので個別のケースをみないとはっきりとは言えませんが、現行のまま分離課税だけを採用すると、こうなってしまう可能性が高いんじゃないかと考えています。
もう少し詳しく見ていきますね。
所得税の税率と分離課税のこと
所得税の税率
まず所得税の税率を考えてみます。
所得税の税率は課税所得の区分ごとに分かれており、5%から45%までとなっています。
課税所得というのは、総収入額から、経費の金額を差し引いて、さらに基礎控除、社会保険料控除や扶養控除等といった所得控除額を差し引いたあとに残った額のことをいいます。
経費がない給与所得者の場合、給与所得控除という経費代わりに国が決めた一律の額を式にあてはめます。
- 課税所得 = 収入額 - 経費(または給与所得控除)- 所得控除
ちなみに給与年額が300万円の場合の給与所得控除は98万円、給与年額が500万円の場合の給与所得控除は144万円が計算で出てきますよ。
※計算式はこちらです。 → 国税庁HP「給与所得控除」
その給与所得控除を差し引いたあと、社会保険料と基礎控除、扶養控除やその他の控除を差し引いたあとの額が課税所得になります。
誰もが該当するであろう基礎控除と社会保険料だけで課税所得を概算してみますと、およそ年額給与300万円の人の課税所得は120万円程度、年額給与500万円の人の課税所得は230万円くらいになってきます。
それじゃ所得税の税率表を見てみます。
課税所得の金額 | 所得税の税率 |
195万円未満 | 5% |
195万円以上330万円未満 | 10% |
330万円以上695万円未満 | 20% |
695万円以上900万円未満 | 23% |
900万円以上1800万円未満 | 33% |
1800万円以上4000万円未満 | 40% |
4000万円以上 | 45% |
そうすると年収が300万円の人の所得税は5%で、年収500万円の人は10%(控除の状況によっては5%かもです)になってくるわけです。
所得税も住民税も基本的な計算式は同じで、おおざっぱに書くとこんな感じです。
- 課税所得 × 税率 = 税額
現制度の計算
たとえば、給与年額が500万円の会社員の場合、年額で考えた課税所得は230万円程度(基礎控除と社会保険料控除のみの場合)になるだろうといいました。
そして、課税所得が195万円以上330万円未満の方は所得税率が10%なわけです。
つまり、給与年額500万の方が年間で仮想通貨取引の利益を50万円出した場合、給与と仮想通貨取引をあわせた所得は300万円になり、所得税は10%の枠のままなので増税の対象者となるということです。
課税所得 | 所得税+住民税 | 分離課税の税率 | 増減 |
300万円 | 10%+10% | 20.315% | 増税 |
ただしこの場合の計算は、仮想通貨で得た利益50万円分にかかる税額だけが増額となることから、計算してみると
50万円×0.315%=1,500円の増税(100円未満切捨て)、というわけです。
※給料と所得税と住民税の関係についてはこちらの記事にまとめましたので気になる方はみてみてください。
ここからは、今後の改正で税額がどう変化するのか考えてみます。
具体例をあげてみますと・・・
例①年間給与500万円・扶養親族0人のAさんの場合
年間給与収入額500万円、扶養親族0人のAさんのことをはじめに現在の税制で考えてみます。
ルールにより、給与年額500万円の方の経費相当額である給与所得控除は144万円になります。
全員にあてはまる基礎控除48万円をひいて社会保険料を仮に年額80万円とすると、、、
500万円-144万円-48万円-80万円=課税所得228万円
Aさんの課税所得は228万円となるわけです。
課税所得が195万円以上330万円未満は所得税の税率が10%ですので、Aさんの仮想通貨取引の利益が年額50万円だとした場合、10%の枠のままですよね。
だから分離課税方式になった場合、Aさんの仮想通貨取引で50万円利益出した場合の税額は0.315%の増税になるわけです。
Aさんの収入 | 課税所得 | 所得税+住民税 | 現行税率改正後の増減 |
給与500万円のみ | 228万円 | +10% | 10%- |
+仮想通貨50万 | 給与500万278万 | +10% | 10%0.315%増税 |
+仮想通貨80万 | 給与500万308万 | +10% | 10%0.315%増税 |
+仮想通貨110万 | 給与500万338万 | +10% | 20%9.685%減税 |
なお、実際に増額になると見込まれるのは仮想通貨による利益額に増税分の率をかけて出しますので、
Aさんの場合、仮想通貨の取引利益が50万円なら0.315%をかけて1,500円の増税、利益が80万円なら2,500円の増税になるだろうというのがおおざっぱな計算です。
※実際の計算はそれぞれの方の控除の状況等でもう少し違いがありますので、この数字はAさんの例でみる金額です。
例②年間給与300万円・扶養親族0人のBさんの場合
つぎに、給与年間300万円で扶養親族なしのBさんのことを考えてみましょう。
ルールにより給与所得控除は98万円になります。基礎控除の48万円、社会保険料を仮の額として40万円差し引くと、課税所得は114万円になります。
300万円-98万円-48万円-40万円=課税所得114万円
所得税の税率は、課税所得が195万円未満は税率5%なわけです。
つまり、Bさんの仮想通貨取引による年間利益が50万円だった場合、仮想通貨利益にかかる税率は15%から20.315%に増税となるわけです。
Bさんの収入 | 課税所得 | 所得税+住民税 | 現行税率改正後の増減 |
給与300万円のみ | 114万円 | 5%+10% | - |
+仮想通貨50万 | 給与300万164万 | 5%+10% | 5.315%増税 |
+仮想通貨100万 | 給与300万214万 | 10%+10% | 0.315%増税 |
+仮想通貨220万 | 給与300万334万 | 20%+10% | 9.685%減税 |
課税所得が330万円になるまでは税率は10%のままなので、そこまでは増税になるわけですね。
実際に見込まれる増税額は、、、
Bさんの場合、仮想通貨の取引利益が50万円なら26,500円の増税、利益が100万円なら3,100円の増税になるだろうというのがおおざっぱな計算です。
※実際の計算はそれぞれの方の控除の状況等でもう少し違いがありますので、この数字はBさんの例でみる金額です。
例③ 年間給与700万円・扶養親族1人のCさん
つぎに、給与年間700万円で扶養親族1人のCさんのことを考えてみます。
ルールにより給与所得控除といいますは180万円になります。基礎控除の48万円、扶養控除の38万円、社会保険料を仮の年額として110万円を差し引くと、残る課税所得は324万円になります。
700万円-180万円-48万円-38万円-110万円=課税所得324万円
所得税の税率は、課税所得が195万円以上330万円未満は税率10%、330万円以上695万円未満は20%です。
つまり、仮想通貨取引にかかる利益が26万円未満だった場合、その仮想通貨利益に対する税額は増税となります。
Cさんの収入 | 課税所得 | 現行税率 所得税+住民税 | 改正後の増減 |
給与700万円のみ | 324万円 | 10%+10% | ー |
+仮想通貨50万 | 給与700万374万円 | 20%+10% | 9.685%減税 |
+仮想通貨100万 | 給与700万424万円 | 20%+10% | 9.685%減税 |
+仮想通貨400万 | 給与700万724万円 | 23%+10% | 12.685%減税 |
実際に見込まれる税額の増減は、、、
Cさんの場合、仮想通貨の取引利益が50万円なら48,400円の増税、利益が100万円なら96,800円の減税になるだろうというのがおおざっぱな計算です。
※実際の計算はそれぞれの方の控除の状況などにより変動しますので、この数字はCさんの例でみる金額です。
例④年間所得1100万円・扶養親族1人の個人事業主Dさんの場合
最後に、事業をしていて経費を差し引いたあとの年間所得額が1100万円あるDさんのことをみてみましょう。
※経費というのは、たとえばDさんのオフィスの賃貸料、光熱水費、設備費用などといったものは事業運営のためのお金です。そうしたものを「経費」と呼び、実際の売り上げ額から経費を差し引いたものを「所得」と呼びます。税法において「収入」というのは経費差引き前の額のことを言いますよ。
たとえば総売上げ(収入)が2500万円の事業で経費が1400万円だった場合には残りの1100万円が所得ということです。
そこから基礎控除48万円、扶養親族1人で扶養控除38万円、国民健康保険料や国民年金などの仮の金額90万円を差し引くわけです。
2500万円-1400万円-48万円-38万円-90万円=課税所得924万円
所得税の税率は、課税所得が900万円以上1800万円未満は33%です。
つまり、仮想通貨取引にかかる利益がいくらであっても減税となるわけです。
Dさんの所得 | 課税所得 | 現行税率 所得税+住民税 | 改正後の増減 |
1100万円のみ | 924万円 | 33%+10% | ー |
+仮想通貨50万 | 1100万円974万円 | 33%+10% | 22.685%減税 |
+仮想通貨1000万 | 1100万円1924万円 | 40%+10% | 29.685%減税 |
+仮想通貨3100万 | 1100万円4024万円 | 45%+10% | 34.685%減税 |
実際に見込まれる税額の減額を計算するとえらいことになります。
Dさんの場合、仮想通貨の取引利益が50万円でも113,400円の減税、利益が3100万円なら1075万2300円の減税になるだろうというのがおおざっぱな計算です。
※実際の計算はそれぞれの方の控除の状況などにより変動しますので、この数字はDさんの例でみる金額です。
税率一律20%はお金持ちは得をする?
最後にまとめの表を出してみます。
課税所得の金額 | 所得税+住民税 | 分離課税導入後※ |
195万円未満 | 15% | 5.315%増税 |
195万円以上 330万円未満 | 20% | 0.315%増税 |
330万円以上 695万円未満 | 30% | 9.685%減税 |
695万円以上 900万円未満 | 33% | 12.685%減税 |
900万円以上 1800万円未満 | 43% | 22.685%減税 |
1800万円以上 4000万円未満 | 50% | 29.685%減税 |
4000万円以上 | 55% | 34.685%減税 |
そう考えてみるといかがでしょうか?
仮想通貨取引による利益が1000万円以上ある方は問答無用で大幅な減税になるわけですが、そこまでの利益を見込んでいる方がどれだけいるかは大いに疑問です。
「仮想通貨取引による利益に対する課税を一律20%に!」という税制改正が実施されたら増税となる方もいるわけですよね。
お金持ちで仮想通貨の利益が大きい人は大幅な減税が見込まれて得をする、、、というところが実際にあるのじゃないかとぼくはおもっています。
もちろんここにあげた税率だけの話じゃなく、前年の損失を翌年の利益と相殺するようにするとかいろいろな改正点はあるでしょうから一概に言えるものではないかもしれませんが、安易に減税だなんていえるものではないわけです。
また、仮想通貨取引について、国は原則国内取引所しか認めていないというスタンスをとっていることから、そのあたりの扱いがどうなるかもまったく不明なところですし。
ですので、どうかわかりやすい言葉だけを信用せず、仕組みをきちんと理解した人の話を聞いてあげてほしいと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
コメント
コメント一覧 (2件)
いつもTwitterではゴールデンカムイのお話させてもらっています!ブログの内容見たらまたぎの話をしている時とキャラ違い過ぎて笑いました。仮想通貨の税率の話、気になっていたので勉強になりました!半分税金で持ってかれるのなら、やっても仕方ないと思っていましたが早計でしたね。
ほろろさん・・・!いつもお世話になります、マタギは仮の姿です笑 税金は仕組みがほんとうにややこしくて、声の大きな人のわかりやすい話しか聞こえてきませんが、ふつうに仮想通貨やっててもそんな税金高くないんですよね。また税金関係も記事書いていきますので見ていただけたらとてもうれしいです^^